2012年4月3日火曜日

進行再発大腸がんに、新たな武器「XELOX+アバスチン療法」:がんサポート情報センター


取材・文:半沢裕子
(2009年11月号)


ポンプをつけずにすむので、患者さんの負担が小さい

もう1つ、患者・医療関係者に大きなメリットと考えられているのは、いろいろな意味で負担が少ない点だ。

mFOLFOX6療法は鎖骨部の皮膚の下にポート(ポンプの取りつけ口)を埋め込み、2週間に1度、そのポートにインフューザーポンプを接続し、46時間、持続的な5-FUの点滴を行わなければならない。ポンプの中にはシリコン製の風船が入っていて、風船が縮む力で薬液が少しずつ体内に注入される。

「ポートは小さいもので、日常生活にほとんど支障はありませんが、皮膚を4〜5センチ切開して埋め込む形でつけますし、消毒など管理に注意しないと感染症、血栓、閉塞などのおそれがあります。また、46時間にわたりインフューザーポンプがつながっていることも患者さんにはストレスでしょう。その点、XELOX療法で用いる薬剤の1つゼローダは内服薬ですから、ポンプを使用しないので、点滴も短時間ですむし、家では1日2回薬を飲むだけ。患者さんはかなり楽だろうと思います」(山口さん)

もちろん、中には飲み薬が向かない患者さんもいる。たとえば、高齢の患者さんやその配偶者が、服薬管理を苦手とするような場合だ。

また、ポートの合併症の感染や血栓はごく一部の患者にしか起きないし、長期にわたる抗がん剤投与で、末梢血管が使いにくくなるとポートを入れねばならなくなることもある。


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ポートの長所は血管外漏出のトラブルがほとんど無いこと、血管痛が起きにくいこと、モルヒネの静脈投与を行いたいとき、高カロリー栄養を投与したい場合、速やかに投与できることがあげられる。しかし、自宅でできるだけ病気になる以前と変わらない生活を続けたい患者さんにとって、「XELOX+アバスチン療法」は期待される治療といえる。

「FOLFOX+アバスチン療法」の場合、インフューザーポンプで注入するのは5-FU持続投与で、それ以外の薬は通院時に点滴で投与される。通院治療センターで投与される薬剤は、吐き気止めが10分、アバスチンが約30分、エルプラットと増強剤(レボホリナートカルシウム)が120分。最後に約10分で5-FUの急速静注()を終了後、看護師にインフューザーポンプをつけてもらい、帰宅となる。これを2週間に1度、行うのだ。

一方で「『XELOX+アバスチン療法』も病院での点滴時間はほとんど変わりませんがインフューザーポンプでの持続投与の代わりに自宅で2週間薬を飲み、1週間休薬するだけです。また、3週間に1度の通院ですむ点も、メリットが大きいと思います」(山口さん)

静注=静脈に注入すること

1人分の調剤に30分以上。被曝の危険性もある

薬による被曝を防ぐため、薬剤師は薬剤不透過性のガウン、帽子、マスク、ゴムの手袋、ゴーグルを着用して抗がん剤を扱う

さらに、山口さんは、「XELOX+アバスチン療法」は、医療関係者にも負担が少ないと話す。今回、病院で調剤の様子を見せてもらったが、たしかに一方の「FOLFOX+アバスチン療法」は、薬をそろえるだけでも大変なことがよくわかる。


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あまり知られていないが、抗がん剤には、発がん性等の毒性を持つものが多い。このような毒性のある薬剤を扱うとき、薬剤師は薬剤不透過性のガウン、帽子、マスクを着用し、ゴムの手袋を二重にはめ、ゴーグルをかけて目も保護しなければならない。薬で被曝し、発がん性等のリスクが高まるからだ。被曝というと放射線を思い浮かべるが、同センター薬剤部主任の中山季昭さんはいう。

「放射線を一定以上浴びると、発がん率が急に高くなります。だから、放射線技師は自分の被曝量を記録し、一定量を超えないように管理しています。防御が必要な理由はそれと同じですが、抗がん剤の被曝量は目で確認できない分、管理が難しいのです。ある報告では適切な防護具を装備して抗がん剤を扱っても、一般の人に比べるとわずかに発がん率が上がると言われています。しかも調製技術の未熟な薬剤師と技術に熟達した薬剤師では、その差が1000倍以上もあるのです」

そのように防御した状態で、横2メートル、縦80センチほどのガラス箱である「安全キャビネット」に向かい、25センチほど開けた開口部から手を入れて薬剤の調製を行う。抗がん剤の薬量は体重や体表面積などから計算するのが一般的である。今回はいずれの療法についても身長165センチ、体重65キロ、体表面積1.716平方メートルの患者さんを想定して調製してもらった。

調剤の手間・時間が少なく医療者側の負担も軽減

まず、「XELOX+アバスチン療法」の場合、アバスチンのバイアル(ゴム栓をしたガラス瓶)2本から必要量をシリンジ(注射器)で抜き取り生理食塩液のボトルに入れ、続いて、エルプラットのバイアル3本に少量のブドウ糖注射液を混ぜ、溶けたら必要量を注射器で抜き取り、ブドウ糖のボトルに入れる。所要時間は約13分。


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一方、「FOLFOX+アバスチン療法」では、同様の作業をアバスチン、エルプラット、レボホリナートカルシウム、急速静注用の5-FUと順々に行い、最後にインフューザポンプ用の5-FU薬液を患者さんやその家族の被曝を防止するため、生理食塩液ではさみ込むような順序で充填して仕上げる。さらにこのインフューザーポンプの調製には、異物を除去するためのフィルターを装着して注入する必要がある。そのため、フィルターを装着すると薬液を押し込むのに非常に大きな力を要するため、薬剤師に大きな負担を強いる。患者さん1人分の薬の調製にかかるのは30〜40分以上。10人分だと約7時間かかる計算だ。山口さんも中山さんも声をそろえる。

「『XELOX+アバスチン療法』はそうした手間や時間が少ないので、点滴の待ち時間短縮にもつながりますし、より多くの患者さんを受け入れることができます」

がんが消えて手術を受け、再発しない人もいる

「副作用が出たら、毒性がひどくならないうちに休薬するのが最大のポイントです」と患者さんに説明する山口さん

それにしても、奏効率が72パーセント、無増悪生存期間が11カ月で、副作用も全体として許容範囲というのだから、「XELOX+アバスチン療法」には期待がもてそうだ。事実、治験参加者の中でも、2人の患者さんには特に大きな効果が見られたという。1人は肝臓に、もう1人は肝臓と傍大動脈のリンパ節に転移があり、2人とも手術はまったく考えられなかったが、「XELOX+アバスチン療法」を4〜5回行ったところ、がんにかなりの縮小が見られ、手術ができた。両者とも、目に見えるがんはない状態(キャンサーフリー)に持ち込めたという。


「抗がん剤の効いている時間は、アバスチンを併用しても非常に長くなるというわけではありません。が、がんが縮小すると、がんが盛り返す前に、可能ならば手術を行い、キャンサーフリーに持ち込むという戦略がとれる。XELOX+アバスチン療法はNO16968試験を見る限り欧米人よりアジア人に適しているというデータもあることから、進行再発した大腸がんの第1選択の1つとして、検討する価値はあると思います」(山口さん)

もちろん、注意すべき副作用はある。

とくに大事なのは、副作用が強く出たとき、休薬するタイミングを逃さないことだ。

「副作用はそれほど強くありませんが、発熱や下痢、手足の皮膚がむける手足症候群が出たりします。そんなとき、患者さんは自己判断で治療を中断することに不安を感じてなかなか休薬できませんが、副作用がひどくならないうちに適切に休薬するのが最大のポイント。
不安に感じたら病院に連絡を取って指示を仰ぐことや、治療開始時に副作用が出たときの指導を受けておくことが大切です。無理に服薬を継続すると逆に治療が継続できなくなってしまいます」(山口さん)

がんの治療はただでさえ身体的・精神的・時間的・経済的負担が大きい。少しでも負担が少なく、きちんと効果が得られる方法を、自分の症状・生活リズムなどにあわせて選びたい。


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